バドミントン選手のためのリハビリプログラム

ふくらはぎ肉離れ後の
段階的リハビリメニュー

最短で競技復帰を実現するためのプログラム
ふくらはぎ肉離れとは?
肉離れの基本知識

ふくらはぎの肉離れはバドミントン選手によく見られる怪我で、主に急な方向転換や踏み込みにより発生します。

主な原因

  • 急な加速・減速動作
  • 疲労の蓄積
  • ウォームアップ不足
  • 筋力・柔軟性の左右差
  • フォームの問題
腓腹筋 肉離れ発生部位 アキレス腱

ポイント:肉離れの重症度

肉離れの重症度はグレード1~3に分類されます。回復期間や適切なリハビリ方法は重症度によって異なります。

  • グレード1: 軽度の線維損傷(2~3週間の回復)
  • グレード2: 中程度の線維損傷(3~6週間の回復)
  • グレード3: 完全断裂(6週間以上、場合により手術)

覚えておくべきこと

効果的なリハビリには段階的なアプローチが重要です。痛みを感じたら無理をせず、一つ前の段階に戻りましょう。

第1~2週:炎症後初期
目標:急性炎症の鎮静化と基本機能の維持

この段階では、過度な負荷を避けながら、基本的な機能を維持することが重要です。

足首のポンプ運動
背屈・底屈を繰り返す

回数:10~15回/3セット/日

目的:血流促進・可動域維持

実施方法:座った状態で足首を上下に動かします。痛みのない範囲で行うことが重要です。

足首の円運動
時計回りと反時計回りに動かす

回数:各方向10回×2セット/日

目的:筋肉のこわばり予防

実施方法:足首を大きく円を描くように回します。両方向に行いましょう。

大腿四頭筋の等尺性収縮
太ももに力を入れる

回数:5秒保持×2セット/日

目的:膝回りの筋力低下予防

実施方法:膝を伸ばした状態で、太ももの前面に力を入れて保持します。

殿筋の等尺性収縮
お尻に力を入れる

回数:5秒保持×2セット/日

目的:股関節周囲の筋力維持

実施方法:臀部に力を入れて保持します。仰向けや横向きでも実施可能です。

自転車漕ぎ
負荷なしでペダルをこぐ

回数:10分×1回/日

目的:血流促進(ペダルを漕げれば)

実施方法:痛みがなければ、負荷なしで自転車をこぎます。無理のない範囲で行いましょう。

リズムと頻度のポイント

リハビリのリズム:朝と夜、または昼と夕方(疲労を残さない間隔で行う)

セット間の休憩:30秒~1分

注意事項

痛みが出る場合は無理をせず、医師や理学療法士に相談してください。痛みがない、軽い範囲で実施することが重要です。違和感が出る場合は中止します。

この時期から再発防止のトレーニングも並行して始めましょう。

第3~6週:回復期前期(荷重開始・柔軟性アップ)
目標:徐々に荷重を増やし、柔軟性を向上させる

この段階では、段階的に負荷を増やしながら、ふくらはぎの機能回復を目指します。

ゴムチューブ足首抵抗運動
ゴムに対して抵抗を加える

回数:各方向10~15回2セット/日

目的:筋力回復・足関節安定

実施方法:ゴムチューブを使用し、背屈・底屈の方向に抵抗運動を行います。

カーフレイズ(座位)
つま先を上げ下げする

回数:10回×2~3セット/日

目的:ふくらはぎの筋収縮を再教育

実施方法:椅子に座った状態で、つま先を上げ下げします。

ふくらはぎストレッチ(壁押し)
壁に手をつき、後ろ脚を伸ばす

回数:各脚20~30秒×3セット/日

目的:腓腹筋・ヒラメ筋の柔軟性向上

実施方法:壁に向かって立ち、後ろ脚を伸ばしたままかかとを床につけます。

片脚立位(支え付き)
片脚でバランスを保つ

回数:10秒保持×3セット/日

目的:バランス・神経筋制御の回復

実施方法:壁や椅子を支えにして片脚で立ちます。徐々に支えなしで行えるよう進めていきます。

ステップ昇降
ステップの上げ下げを繰り返す

回数:30秒間昇降×2セット/日

目的:軽めの下肢筋力・循環促進

実施方法:低い踏み台を使い、ゆっくりと昇り降りを繰り返します。痛みがなければ徐々に時間を延ばします。

この時期のポイント

痛みをモニターしながら徐々に負荷を増やしていきます。違和感が強くなったら一つ前の段階に戻りましょう。

特にカーフレイズとストレッチは筋肉の回復に重要です。

第7週以降:回復期後期~競技復帰準備期
目標:バドミントン競技に必要な機能を回復させる

この段階では、競技特有の動きへと徐々に近づけていきます。

カーフレイズ(立位両足→片足)
両足→片足でつま先立ち

回数:15回×2セット/日

目的:筋力強化・跳躍準備

実施方法:両足で行えるようになったら、片足でのカーフレイズに移行します。

片足立位(バランスパット使用可)
不安定な面でバランスを取る

回数:15秒×3セット/日

目的:足部・体幹のバランス感覚強化

実施方法:バランスパッドや柔らかいクッションの上で片足立ちをします。

ステップ昇降(高さを徐々にアップ)
徐々に高さを上げていく

回数:1分×2セット/日

目的:階段踏み込み動作の準備

実施方法:踏み台の高さを徐々に上げていきます。最終的にはバドミントンでの踏み込み高さに近づけます。

軽いジャンプ(両足→片足、前後左右)
様々な方向へ軽くジャンプ

回数:10回×2セット(週2~3回)

目的:踏み込み・切り返し、負荷訓練

実施方法:まず両足で軽いジャンプから始め、徐々に片足ジャンプや方向変換を加えていきます。

軽いジョギング(平地・短時間)
平地でのゆっくりとしたジョギング

回数:2~3分×2セット(週2~3回)

目的:バドミントン動作の再獲得、全身持久力の回復

実施方法:平坦な場所で、ゆっくりとしたペースで短時間のジョギングを行います。痛みを感じたらすぐに中止しましょう。

競技復帰へのステップ

ジョギングやジャンプなどスポーツ特有の動きができるようになったら、徐々にバドミントン特有の動きへと移行していきます。

競技復帰の判断基準:

  • 痛みなく日常生活動作ができる
  • 両足のふくらはぎ筋力に大きな差がない
  • バランス能力が回復している
  • 方向転換やジャンプが痛みなくできる
再発防止に向けたトレーニング
目標:再発予防と健康なふくらはぎの維持

対側(痛めていない足)のトレーニングと呼吸に注目した予防トレーニングが重要です。週3~4回を目安に継続しましょう。

カーフレイズ(片脚)
健側の脚でのつま先立ち

回数:10回~15回2~3セット

目的:筋力維持、左右差の予防

実施方法:健側(痛めていない方の足)で体重を支え、つま先立ちをし踵を上げ下げします。

スプリットスクワット
健側の脚を前に出してスクワット

回数:10回~15回2~3セット

目的:健側の筋力強化、バランス向上

実施方法:健側の脚を前に出し、後ろ脚(痛めた足)を椅子に乗せた状態でスクワット動作を行います。

デッドリフト(片脚)
片脚立ちで前傾姿勢をとる

回数:10回×2セット

目的:後面筋群のバランス強化

実施方法:健側の脚で立ち、背筋を伸ばして前傾姿勢をとります。反対側の脚は後方に伸ばします。

キャット&ドッグ
呼吸 背中を丸めたり反らしたりを繰り返す

回数:1分×1セット/1日2回

目的:身体の屈曲側筋肉と呼吸機能の促進

実施方法:四つ這いで背中を丸めたり(キャット)、おなかを反らせたり(ドッグ)します。背中を丸める際は深く息を吐き切ります。

ファンクショナルトレーニング
バドミントン特有の動きを取り入れる

回数:各種目距離(例:5m進む)を目安に、移動しながら行う

目的:競技特異的な動きの再獲得(股関節の安定性を高める)

実施方法:参考資料の動画リンクより確認してください。

肉離れの再発メカニズム

ふくらはぎを痛める原因として、以下の要素が考えられます:

  • 身体の後ろ側の筋肉を使いすぎている可能性
  • 反対側の脚が十分に使えていない可能性
  • 呼吸と全身の連動性の低下

トレーニングのポイント

健側のトレーニングは筋力維持、左右差の予防、全身の血流促進に役立ちます。特にキャット&ドッグでの呼吸法は、身体の後ろ側の緊張を緩和する効果があります。

ファンクショナルトレーニングは競技特有の動きを取り入れることで、より実践的なリハビリを可能にします。

リハビリテーションのまとめと注意点
リハビリを成功させるための原則

ふくらはぎの肉離れからの回復は、段階的に負荷を高めることが成功への鍵です。

段階的な回復プロセス

  1. 炎症後初期(1~2週):
    基本的な動きと血流促進
    ※この時期から再発防止トレーニングも開始
  2. 回復期前期(3~6週):
    荷重開始と柔軟性向上
  3. 回復期後期(7週以降):
    スポーツ特有の動きへの移行
  4. 再発防止:
    健側の強化と全身の連動性
    ※炎症後初期から開始し継続
第1~2週:炎症後初期 基本動作・血流促進 第3~6週:回復期前期 荷重開始・柔軟性向上 第7週以降:回復期後期 競技特有の動きへの移行 再発防止トレーニング(第1週目から開始・継続)

リハビリの基本ルール

  • 痛みがない、軽い範囲で実施すること。違和感が出る場合は中止または一つ前の段階に戻る。
  • リズム:朝と夜または、昼と夕方(疲労を残さない間隔)で行う。
  • 頻度:基本的に1日1~2回、週5日程度。ジャンプや走行は週2~3回に制限。
  • セット間の休憩:30秒~1分を確保する。
  • 再発防止:炎症後初期(第1~2週)から開始し、継続的に実施する。

バドミントン競技復帰の目安

以下の条件がすべて満たされてから、段階的に競技復帰を目指しましょう:

  1. 日常動作が痛みなく行える
  2. ふくらはぎの筋力が左右で同等レベルに回復
  3. 片足立ちでのバランスが安定している
  4. ジャンプや方向転換が痛みなく行える
  5. 競技特有の動きが不安なく行える

焦らないことが最も重要です。再発防止のためのトレーニングは競技復帰後も継続しましょう。

参考資料

ファンクショナルトレーニング参考動画

バドミントン選手のためのファンクショナルトレーニング
参考動画

股関節を中心に体を回旋させ、競技特異的な動きの再獲得を目指し、股関節の安定性を高めるトレーニングです。

動画を見る

最後に

肉離れの回復には個人差があります。このプログラムはあくまで一般的なガイドラインです。痛みや違和感が続く場合は、必ず医師や専門家に相談してください。

急な痛みや腫れ、発赤などの症状が見られる場合は、すぐに医療機関を受診してください。