バドミントン「魂」の教室

「裏にある伏石」を見よ!

マツダ不屈の魂と、掴むべき「セットされる」感覚。結果の裏に隠された、本当の上達プロセス。

1. 「裏にある伏石」を見抜く目

私たちはつい、ラリーの「決まった瞬間」や「ミスした瞬間」だけを見てしまいがちです。しかしコーチは、その結果に至るまでの「途中経過」を全く覚えていない人が多いと指摘します。

中島コーチの指摘

決まった瞬間しか見てないとか、ミスった瞬間しか見てない人が非常に多いと感じます。…ラリーの途中経過を全く考えない、むしろ覚えてないっていう人多いんじゃないかなと思います。
分解してみてもいいのかなと思います。サービスとサービスレシーブに注目してみましょうとか…展開に注目してみようとか。…ラリーをしながらどういうことを感じたのか。そこで上げたのが良くなかったのかとかね。そういう過程も注目してみましょうと。

AIによる分析が進化する未来は近いかもしれませんが、それまでは自分たち人間が分析する必要があります。ラリーを「サービスレシーブ」「展開」「分岐点」「最後のショット」というように分解し、プロセスを分析する視点が求められています。

伏石(氷山の一角)の図 プロセス / 伏石 (展開、サービスレシーブ、分岐点) 結果 (ミス/ポイント)
結果は氷山の一角。水面下の『伏石』を見よ。

Key Takeaway

結果(ミス)だけを見るな。「裏にある伏石」を分析せよ。 スマッシュミスという結果だけを反省しても上達は遅い。そのラリーがなぜスマッシュを打つ展開になったのか、その前のサービスレシーブはどうだったのか。ラリーを「分解」し、プロセスを分析する視点こそが上達の鍵となる。

2. マツダの魂:原爆と不屈の精神

続いて、コーチは『マツダの魂』という書籍(を元にしたYouTube動画)を紹介。テーマは、広島の不屈の精神を体現する企業、マツダの物語です。

1945年、広島に原爆が投下。しかし、マツダは立ち上がります。ここに、強烈な皮肉が隠されています。

原爆とロータリーエンジンを繋ぐ「コンピューター」

ロータリーエンジンの実用化は困難を極めましたが、これを可能にしたのが、マツダが導入したコンピューターでした。そして皮肉なことに、広島を壊滅させた原子爆弾もまた、コンピューターの産物でした。

マツダの皮肉:コンピューターの両義性 COMPUTER 破壊 (原爆) 創造 (ロータリー) 同じ「叡智」が、皮肉にも...
人間の「叡智」が、破壊と創造の両方を可能にした。

中島コーチの解説

人を無差別殺戮する兵器を生み出すのに不可欠だったコンピューター。そのコンピューターの力を借りなければロータリーエンジンを実現できなかったと。原爆10日からわずか22年…広島の企業が…原爆開発の産物とも言える技術の助けを借りて達成した。非常に皮肉な話ですよね。

この土台を築いた創設者・松田重次郎は「金儲けの神様」。「クズコルク」から高品質なコルクボードを生み出すなど、不屈の精神と技術革新でビジネスを軌道に乗せました。この精神こそがマツダの「伏石」となったのです。

3. 父子のドラマ:偉大な父と息子の執念

しかし、本題のロータリーエンジンを成し遂げたのは、天才・重次郎ではありませんでした。彼の息子、松田恒治(つねじ)です。

コーチは、この二人の対比がドラマチックだと語ります。

  • 父・重次郎: 天才的な個の能力でゼロから富を生み出した「金儲けの神様」。
  • 子・恒治: 偉大な父の背中を見ながら、父を超えられない葛藤と劣等感の中で生きた男。
父(重次郎)と子(恒治)の対比 父・重次郎 天才 0 → 1 子・恒治 劣等感 執念 ロータリーエンジン
偉大な父への執念が、父とは違うやり方で歴史を動かした。

中島コーチの解釈

この偉業を成し遂げたのは重次郎ではなく松田恒治です。息子ですね。この2人の大比は実にドラマチックです。…個人の力では父重次郎に及ばなかったかもしれません。しかし歴史は彼を選びました。
恒治がどれほどの苦境の中で夢のエンジンにかけたのか。それは父が築いた土台の上で、父とは違うやり方で世界を驚かせ、父を超える唯一の道だと信じて…。

コーチは、この物語を紹介した動画の「AIによる感想」も引用。それは、マツダの歴史が単なる技術史ではなく、「人間の業と希望の物語」であると喝破する内容でした。

4. 人間心理:「弱さ」への攻撃性

話題は「幸せじゃない人は周りに優しくできない」というテーマへ。コーチはあるドッキリ動画を例に出しました。

幸福度と他者への態度 幸福度が低い時 😠 (ポイ捨て犯) 注意 👴 (弱そう) 🥊 (強そう) 攻撃 萎縮 幸福度が高い時 🙂 (ポイ捨て犯) 謝罪 謝罪
心の余裕のなさが、相手を見て態度を変える「いい加減さ」を生む。

中島コーチの観察

これなんかおじいちゃんみたいな…メイクをした上でヘビー級のボクサーがタバコのポイ捨てを注意するんですよね。「捨ててくれませんか」って言っていったら「ふざけんなよ」みたいな感じでね、じいちゃん相手に殴りかろうとしてくるんですよ。
(ボクサーが)服脱いで体を見せたら逃げていくっていう…弱いと思うと人ってさなんかね、怒りを感じたりとか…相手が弱そうな人にタバコのポイ捨てを注意されると腹が立って、強そうな人に注意されると腹が立たないと。いい加減ですよ本当はね、人間って。

自分に非があっても、相手が弱そうだと見るや攻撃的になる。この「いい加減さ」は、自分自身の幸福度の低さと密接に関連しているのではないか、という鋭い指摘でした。

5. 掴むべき「セットされる」感覚

後半は、前田選手が予定している5時間半の基礎打ちの話題へ。「体力が持たなそう」と不安がる前田選手に対し、コーチは「基礎打ちこそ長時間やる価値がある」と断言します。

コントロールが「セットされてくる」感覚

コーチが強調したのは、「セットされてくる」という感覚です。

「セットされる」感覚の図解 練習開始時 (ズレ) 長時間の反復 セットされた状態 (一致)
反復練習が、イメージと身体の『ズレ』を補正し『セット』する。

中島コーチの体感

(基礎打ちは)楽しくなってくるんだよね。…コントロールできてる感がね、分かってくると楽しくなると思います。…俺でもさ、なんか最初ノーアップで入った時ってちょっと不安定な感じある。本当に触ってて「あれ、コントロールできてないな」って思うんだけど、5分10分ってやってるうちにだんだんだんだん整ってくる。
それはでも前からそうだったな…5分10分打ってるとなんかセットされてくるっていう感覚があるんだよね。「ああ、セットされてきた」…(前田選手も)「ギリギリ狙ってるつもりじゃないのにネットインしちゃう」とかそういう感じだよ。

打ち始めはイメージと打球がズレているが、5分、10分と打ち続けるうちにズレが補正され、コントロールが「セット」されてくる。5時間半の基礎打ちは、この感覚を掴む絶好の機会なのです。

6. コーチング的 5つの学び

今回の教室も、バドミントンの技術を超えた、深い学びに満ちていました。特に重要なポイントを5つに凝縮します。

1. 「伏石」を見る目を養う

ミスという「結果」だけを嘆くな。その結果に至った「プロセス」を分析することが重要。ラリーを分解し、なぜその展開になったのかという「伏石」を見抜く目を鍛えよう。

2. 不屈の魂で「ゼロから生み出す」

マツダ創設者・重次郎のように、裏切りや失敗を経験しても、そこから学び、新たな価値(クズコルクの製品化など)を生み出す不屈の精神を持つことが、道を開く。

3. 執念は「コンプレックス」を超える

偉大な父(天才)への劣等感を抱えていた恒治が、ロータリーエンジンという「父とは違うやり方」で執念を燃やし、父を超えた。才能でなくとも、執念は不可能を可能にする。

4. 幸福度は「強さ」に表れる

「弱そう」と見るや攻撃的になるのは、心が不幸で余裕がない証拠。真の強さとは、相手が誰であっても態度を変えないこと。まずは自分が幸せであることが重要だ。

5. 練習で「セットされる」まで打ち込む

「コントロールできない」とすぐ諦めるな。5分、10分と打ち込む中で、イメージと身体が一致する「セットされる」瞬間が来る。その感覚を掴むまで、地道な基礎打ちを継続しよう。

7. 実践チェックリスト

学んだことを行動に移し、自分のものにするための具体的なアクションリストです。明日からの練習で、一つでもチェックを入れてみましょう!