宮台真司氏に学ぶ共同体再生論

ご先祖様を忘れた日本人の行く末

社会学者・宮台真司氏と考える、共同体の再生への道

1. はじめに:あなたは「法の奴隷」になっていませんか?

「ルールで決まってるんで」「罰せられるのが嫌だから、良いことをする」。

社会学者の宮台真司氏は、こうした思考停止の状態を「法の奴隷」と呼び、現代社会に蔓延する深刻な問題だと警鐘を鳴らします。今回の講義では、宮台氏の鋭い洞察を基に、現代日本が直面する「感情の劣化」と、その根底にある共同体の崩壊について深く掘り下げます。

かつて日本人が持っていた「ご先祖様に顔向けできない」という感覚はどこへ消えたのか? 損得勘定ばかりで動く人間にならず、真の人間性を取り戻すにはどうすればよいのか? これからの時代を生き抜くためのヒントを探りましょう。

2. 「感情の劣化」を生む3つの病

宮台氏は、現代人の生きづらさが「感情の劣化」という形で現れていると指摘します。それは、3つのキーワードで説明できます。

現代人の3つの病 ¥ 損得マシーン 「わかる〜」 「エモい」 「それな」 言葉の自動機械 § 法の奴隷
あなたの心に潜む「病」はありませんか?

1. 損得マシーン:あらゆる行動や判断を損得とかコストパフォーマンスとか打算でしか考えられない、浅ましい生きる目的を失った人間。

2. 言葉の自動機械:他人から借りた言葉、フレーズ、常識をそのまんま使い、自分の内側から湧き出る言葉で語れない人間。

3. 法の奴隷:「ルールで決まってるから」と言って、自分で判断することを放棄した思考停止した人間。

自分の頭で考え、自分の言葉で語ることを放棄し、ただ損得とルールだけで動く。こうした「劣化した人間」が増えていることが、社会全体の停滞を招いているのです。

3. なぜ「ご先祖様」を忘れたのか?

では、なぜこのような「感情の劣化」が起きてしまったのでしょうか。宮台氏はその根源的な理由として、私たちと「ご先祖様」との関係性の断絶を挙げます。

ご先祖様との断絶 X
「見られている」という感覚の喪失が、倫理観を希薄にさせた。

宮台真司 氏

年に1度定期的にご先祖様を迎えて送るから、「ご先祖様に顔向けできない」という感受性があった。…ご先祖様と相見える時を想像する機会が全くなければ、恥の感情を抱くチャンスもない。…ということは、もしその感受性があれば絶対やらなかったことを平気でできるようになっちゃうってことなんです。

かつての日本には、お盆やお祭りを通じて、死者であるご先祖様と定期的に「再会」する文化が根付いていました。その文化が「見られている」という意識を生み、人の行動に倫理的な制約を与えていたのです。ご先祖様や「お天道様」が見ているという感覚が失われ、他人の目だけを気にするようになった結果、見られていなければ何をしてもいい、という浅薄な倫理観が広がってしまいました。

4. システム依存が招く悲劇

倫理観の崩壊と並行して、社会は市場や行政といった「システム」へ過度に依存するようになりました。宮台氏は、このシステムがいざという時には機能しない、脆いものであることを強調します。

脆いシステムと強い共同体 SYSTEM 真の支えは「人間関係」
災害時、本当に頼れるのはシステムか、それとも仲間か。

宮台真司 氏

日本はちょっとした災害でもう全部止まるんです。…その時に人間関係の助け合いがなくても、市場や行政が助けてくれますって、ありえないでしょ。…いざっていう時にこんなシステムに全面的に依存しているとみんな死ぬぞ。

大規模災害時には行政システムは麻痺します。その時、最後に頼りになるのは、地域社会や仲間との「人間関係」に他なりません。「いざという時に助けてくれる人はいない」という厳しい現実から目をそむけ、私たちはますます孤立し、共同体は崩壊していくのです。

5. コーチング的5つの学び

宮台氏の指摘は、単なる社会批評ではありません。私たちが個人として、どう行動すべきかを問うています。今回の対談から得られる「コーチング的5つの学び」をまとめました。

1. 「損得マシーン」を超えよ

コスパや損得での判断をやめ、「やりたいからやる」「助けたいから助ける」という動機を大切にする。

2. 自分の言葉で語る訓練をする

他人の受け売りに頼らず、自分の内側から湧き出る感情や考えを言葉にする努力をする。

3. 「掟」の感覚を思い出す

法律だけでなく、地域や仲間内の暗黙のルール「掟(おきて)」を尊重する。それは共同生活の知恵である。

4. 「ご先祖様に顔向けできるか?」と自問する

自分の行動が、広い視野で見て「恥ずかしくないか」を常に問う。それは損得を超えた視点を与えてくれる。

5. いざという時に頼れる仲間を作る

ネット上だけでなく、有事に助け合えるリアルな人間関係を築くため、具体的な一歩を踏み出す。

6. 今日から始めるアクションリスト

学んだことを行動に移してこそ、変化は生まれます。以下のチェックリストを使って、共同体感覚を取り戻すためのアウトプットを習慣にしましょう。