宮台真司氏と語る『国に頼れない時代の生存戦略』―沈む船から抜け出し、仲間とボートを作る生き方
DATE: 2025年6月26日
1. Opening: 沈みゆく船で、あなたはどう生きるか?
「国や社会という大きな船は、もう沈みかけている」。そんな衝撃的な言葉から、今回の特別対談は幕を開けました。ゲストは社会学者の宮台真司氏。現代社会が抱える問題を鋭くえぐり出し、「私たちはこれからどう生きるべきか」という根源的な問いを突きつけます。
多くの人が「勝ち組」を目指し、沈みゆく船の中で少しでも良い座席を確保しようと必死になっています。しかし宮台氏は、その競争自体が無意味だと断言します。本当にすべきことは、座席争いではなく、信頼できる仲間と共に自らの手で小さな「ボート」を作り、沈む船から脱出すること。この対談は、そんな新しい時代の生存戦略を学ぶ、刺激的な時間となりました。
【宮台真司氏】(05:56)
勝ち組になったところで(沈む)船の中のいい座席を取りなさいでしょ。船はどうせ沈むんで、そんなところでいい席取ったってどうしようもなくって。そうじゃなくって、人から見えなくてもいいから沈むことを前提にして、自分でボートを作れ。仲間を助けられるようなボートを、仲間を助けられるようなボートを作っていくってことですよ。
今日のKey takeaway
国やシステムという巨大な船は、いずれ沈む。重要なのは、船内の良い席を争うことではない。信頼できる仲間と共に、自らの手で小さなボートを作り、荒波の大海原へ漕ぎ出す覚悟と実践こそが、これからの時代を生き抜く唯一の道である。
2. なぜ私たちは息苦しいのか?―システムに侵食される“生活世界”
対談の導入で、川嶋政輝氏はドイツの思想家ハーバーマスの概念を用いて現代社会を分析しました。ハーバマスは、私たちの世界を「システムの世界」と「生活世界」の2つに分けました。
- システムの世界:国家(権力)やグローバル経済(貨幣)など、効率やルールで動く外部の世界。
- 生活世界:家族や地域コミュニティなど、共感や伝統、言葉によって成り立つ内側の世界。お金や権力が介在しない、私たちの「グラウンド」です。
問題は、この「システム」が私たちの「生活世界」を侵食(植民地化)し、人間関係が希薄になっていることです。かつて日本にあった「世間様」のような共同体が失われ、感情や共感が薄れていく。この構造を理解することが、現代の息苦しさの正体を知る第一歩となります。
【川嶋政輝氏】(01:51)
経済グローバル経済とか大きくなったこの官僚制度、大きな政府、それらをシステム世界と言いますが、それらが生活世界に入り込むことによって人々の自由とか共感とか感情そういったものが失われていく世の中になるんだということを警告した方なんですね。
【川嶋政輝氏】(03:34)
(生活世界を)日本人は世間様って読んだりしてたわけですよね。それを作っているのは共通言語、言葉とか、そして伝統や文化なんですよ。
3. “国”より大事なものがあった―120年前の日本人のリアル
宮台氏は、現代の私たちが当たり前に思う「国=日本」という概念が、実は非常に新しいものであると指摘します。日清戦争以前の日本人にとって、「国」とは自分が所属する「藩」のことでした。会津の人間にとっての国は会津であり、長州の人間にとっての国は長州だったのです。
彼らは、欧米列強という共通の敵に対抗するため、一時的に「日本」という大きな枠組みに協力はしましたが、その根底には「我が藩」への強い帰属意識がありました。それは、自分たちの生活や文化、仲間が息づくリアルな共同体だったからです。現代のように、顔の見えない巨大な「国家」だけを頼りにする感覚とは全く異なりました。
【宮台真司氏】(07:20)
国っていう概念は元々国民国家を意味しない。意味するようになったのは日清戦争以降なんですよ。最近ですね。だから国って言うと幕藩体制の300前後の藩のことだったんですよ。
【宮台真司氏】(08:16)
国家っていう概念があったけど、国家よりも我が所属する長州や会津の方が大事で…それが元々日本人の生き方だった。
この「立派な人になれ」という言葉には、学歴や地位ではなく、人として尊敬される存在(リスペクタブル)であれ、という昔ながらの価値観が込められています。それは、地域共同体の中で育まれ、恩義を感じ、仲間を支えるという、かつての日本人が持っていた公共性の精神そのものなのです。
4. 天皇論の核心―なぜ“母”の力が重要なのか?
対談は、日本の根源的なテーマである「天皇論」へと踏み込みます。宮台氏は、思想家・吉本隆明の理論を引いて、共同体の成り立ちを解説。元々、人類の共同体は「母が同じ」という概念(母系)から始まったと述べます。
しかし、争いを収めるために武力を持つ男性(武士)が統治者となると、社会は「父系」へと移行します。この時、統治の都合上、「母」的な要素はノイズとされ、天皇も「男系」であるべきという考えが作られました。宮台氏は、これを「天皇を統治の道具として利用したい人たちの都合」だと喝破します。
【宮台真司氏】(23:48)
天皇も男系って話になったんです。…天皇は男系じゃなきゃいけないっていうのは、簡単に言います、天皇を道具として利用したい人たちの一貫した姿勢なんです。なるほど、統治ツールとして利用したいんです。
【宮台真司氏】(27:17)
母が「あなたは人のために死ねますね」…これを父が言うとなんか迫力ないというか…「それ言ってるあなた父であるあなたは人のために死ねるの?」みたいな疑念が生じるじゃん。いやそれ本当なんですよ。
なぜ「母」が重要なのか。それは、母が出産という命がけの行為を通じて、生命の継承を担ってきたからです。「あなたのために死ねますか?」という究極の問いかけは、命をかけてきた母が言うからこそ、圧倒的な説得力を持つのです。これは共同体の結束の根源に関わる力であり、父系の論理だけでは説明できない深さを持っています。
5. Takeaways: 宮台真司氏の提言から学ぶ、5つの生存戦略
今回の対談は、単なる社会時評に留まらず、私たちがこれからを生き抜くための具体的な指針に満ちていました。特に重要な5つの視点をまとめます。
システムへの依存から自立へ
国や巨大組織はあなたを守らない。沈む船から降り、自分の足で立ち、仲間と助け合える共同体(ボート)を作る覚悟を持て。
「あなた」のために行動する
「国のため」という抽象的な虚構ではなく、「目の前のあなた」という具体的な他者のために行動することが、真の共同体の原点である。
「立派な人」を目指す
人を判断する基準は地位や学歴ではない。仲間から尊敬される(リスペクタブルな)人間であるか、その人の「あり方」が問われる。
歴史と根源から物事を捉えよ
なぜ今の社会構造になったのか?歴史(母系社会、武士の台頭など)を知ることで、現代の”当たり前”を疑う視点が得られる。
「母」の力を見直す
効率や論理だけの父系的な価値観だけでなく、命を育み、他者のために自己を捧げる母系的な力の重要性を再認識することが、共同体を再生する鍵となる。
【宮台真司氏】(25:48)
人間の自然の感情は仲間のために仲間を守るために戦う。仲間のために死するしかないんだよ。それは戦争を経験した人なら誰でも知っている。
6. Action: “仲間とボートを作る”ための実践チェックリスト
宮台氏の提言は、日々の行動に落とし込んではじめて意味を持ちます。知識を血肉に変え、自分の「ボート」を作り始めるためのアクションリストです。今日から一つでもチェックを入れてみましょう。
実践チェックリスト
7. Closing: 小さなボートから、未来を漕ぎ出す
宮台真司氏との対談は、私たちに厳しい現実と、しかし確かな希望を示してくれました。もはや国や巨大なシステムに、自分の人生を委ねる時代ではありません。自分の周りを見渡し、本当に信頼できる仲間は誰か、自分は何のために行動するのかを問い直す時が来ています。
一人ひとりが自立し、顔の見える関係性の中で助け合う。そんな小さな共同体(ボート)を無数に作っていくこと。それが、不確実な未来という大海原を乗り越えていく、唯一の道なのかもしれません。この対談が、皆さんが自分自身のボートを漕ぎ出す、その第一歩となることを願っています。
【川嶋政輝氏】(29:42)
本当にこの今の日本を考える上で非常に大事なお話ではないかなと思いますのでもう是非ねあの当然ご意見思われることたくさんあると思います是非コメントにもねたくさん書き込んでいただけたらなと思います。
【宮台真司氏】(29:43)
はい、本当に僕も嬉しいです。今日はこういう話ができて。はい、ありがとうございます。
まずはチェックリストの小さな一歩から。あなたの行動が、未来を変える力になります。