Phoenix-Aichiオンライン教室

ご先祖様を忘れた日本人の行く末とは?社会学者・宮台真司氏と考える、共同体の再生への道

2025年6月26日

深い森の中に差し込む光―伝統と未来への道を象徴する風景

はじめに:あなたは「法の奴隷」になっていませんか?

「ルールで決まってるんで」「法律で罰せられるのが嫌だから、良いことをする」。

社会学者の宮台真司氏は、こうした思考停止の状態を「法の奴隷」と呼び、現代社会に蔓延する深刻な問題だと警鐘を鳴らします。今回のオンライン教室レポートでは、「結び大学」に宮台氏をゲストとして迎えた対談動画を基に、現代日本が直面する「感情の劣化」と、その根底にある共同体の崩壊について深く掘り下げます。

かつて日本人が持っていた「ご先祖様に顔向けできない」という感覚はどこへ消えたのか? 損得勘定ばかりで動く「損得マシーン」にならず、真の人間性を取り戻すにはどうすればよいのか? 宮台氏の鋭い洞察から、これからの時代を生き抜くためのヒントを探ります。

この記事のキーポイント

この記事では、社会学者・宮台真司氏の議論を基に、現代人が陥りがちな「損得マシーン」「言葉の自動機械」「法の奴隷」という3つの状態を解説。かつて共同体を支えていた「ご先祖様」や「世間」の存在がなぜ失われたのかを解き明かし、システムに依存しきった社会の脆弱性を指摘します。そして、人間関係の再生こそが、未来を生き抜く鍵であることを学びます。

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1. 「感情の劣化」を生む3つの病:現代人の肖像

宮台氏は、現代人の生きづらさが「感情の劣化」という形で現れていると指摘します。それは具体的にどのような状態なのでしょうか。対談の冒頭で、ナビゲーターの川嶋政輝氏が宮台氏の思想のキーワードを3つ紹介しています。

川嶋政輝:(04:44) そんな状態を理解するための3つのキーワードっていうのがあります。え、それがですね、こちらの「損得マシーン」「言葉の自動機械」「法の奴隷」なんですね。これ本当ね、あの、うまくその現代人の陥ってる特徴をまとめられた言葉です。

川嶋政輝:(04:58) 「損得マシーン」とはあらゆる行動や判断を損得とかコストパフォーマンスとか打算でしか考えられない浅ましい生きる目的を失った人間なんだと。

川嶋政輝:(05:12) そして「言葉の自動機械」っていうのは他人から借りた言葉、フレーズ、常識とか価値観をそのまんま使って、要は自分の内側から湧きいずるような言葉で語れない人間のことなんだと。

川嶋政輝:(05:32) そして「法の奴隷」、これはいやルールで決まってるんだから法律でしょって言って自分で判断することを放棄した思考停止した人間のこと。

(05:51)

自分の頭で考え、自分の言葉で語ることを放棄し、ただ損得とルールだけで動く人間。あなたの周り、あるいはあなた自身に、こうした傾向はないでしょうか。宮台氏は、政治家から一般市民に至るまで、こうした「劣化した人間」が増えていることが、社会全体の停滞を招いていると分析します。

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2. なぜ日本人は「ご先祖様に顔向けできない」と感じなくなったのか?

では、なぜこのような「感情の劣化」が起きてしまったのでしょうか。宮台氏はその根源的な理由の一つとして、私たちと「ご先祖様」との関係性の断絶を挙げます。

宮台真司:(12:58) そうやって年に1度定期的にご先祖様を、ね、迎えて送るから、ご先祖様に顔向けできない、ていう感受性が日本だけじゃなくてケルトにもある、あったんですよね。

宮台真司:(13:17) で、言い換えると、そのまあ逆考えると、もう分かりようにご先祖様と相見える時っていうことを想像する機会が全くなければ、おご先祖様に顔向けできないっていう恥の感情を抱くチャンスもない。

宮台真司:(13:39) ということは、もしご先祖様に顔向けてき(て)恥ずかしいっていう感受性があれば絶対やらなかったことを平気でできるようになっちゃうってことなんですよ。

(13:54)

かつての日本には、お盆やお祭りといった行事を通じて、死者であるご先祖様と定期的に「再会」する文化が根付いていました。その文化が、「見られている」という意識を生み、人の行動に倫理的な制約を与えていたのです。それは人だけでなく、あらゆるものに魂が宿ると考えるアニミズムの感受性とも繋がっていました。

宮台真司:(15:08) だからバチが当たるっていうのは、誰も見ていないんじゃなくて、人は見てないけどみんな見てるよ、ほら(天井にも)あるよ。お手洗いだってあるよ。全部見てるんだよ。

宮台真司:(15:21) で、このアニミズムの感受性があれば、誰も見てないからずるをしよう、とはならないでしょ。つまり今の僕らのひらめき黒の目(※ヒラメキョロ充の目)は見てるのは人だけだから、人が見てないならずるし放題になるじゃん。

(15:43)

ご先祖様や「お天道様」が見ているという感覚が失われ、他人の目だけを気にするようになった結果、見られていなければ何をしてもいい、という浅薄な倫理観が広がってしまったのです。

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3. システムへの依存が招く悲劇:災害時に本当に頼れるもの

個人レベルでの倫理観の崩壊と並行して、社会全体も大きな問題を抱えています。それは、市場や行政といった「システム」への過度な依存です。宮台氏は、このシステムが、いざという時には機能しない脆いものであることを強調します。

宮台真司:(23:51) 例えば日本はちょっとした災害でもう全部止まるんです。何回トラフが起こったら全部止まるんですよ。はい。その時に人間関係の助け合いがなくても、市場や行政が助けてくれますって、え、ありえない、ありえないでしょ。

宮台真司:(26:24) それは、いざっていう時にこんなシステムに全面的に依存しているとみんな死ぬぞ。何かあったら命を落として人を助ける、困ってるやつだったら人肌脱いで助けるという奴らがたくさんいないと、うん、日本は終わるんだよね、て思って生きていると生きていけないんですよ。

(26:54)

阪神・淡路大震災や東日本大震災の例を引くまでもなく、大規模災害時には行政システムは麻痺します。その時、最後に頼りになるのは、地域社会や仲間との「人間関係」に他なりません。しかし、現代社会はそうした人間関係を築く時間や手間を惜しみ、ネット上の希薄なつながりで満足してしまいがちです。

宮台真司:(27:22) つまり寂しいってことはないです、もうインターネットで友達がいますからって言っても、本当は分かってるわけ。いざっていう時に助け合う関係はない。でも例えばそのこと意識して生きるの辛いでしょ。…だから困った時に助けるような人間関係を作れよって言うともうコメント欄「どうやって作ったらいいんですか?」うわっとこれ大変なことだ。

宮台真司:(28:13) だから、忘れちゃった方が楽なんです。…それが続くとうん、本当に全部忘れちゃうんです。

(28:38)

「いざという時に助けてくれる人はいない」という厳しい現実から目をそむけ、忘れることで心の安寧を保つ。その結果、私たちはますます孤立し、共同体は崩壊していく。この悪循環を断ち切るには、どうすればいいのでしょうか。

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4.【コーチング的5つの学び】共同体感覚を取り戻すために

宮台氏の指摘は、単なる社会批評にとどまりません。私たちが個人として、またコミュニティの一員として、どう行動すべきかを問うています。今回の対談から得られる「コーチング的5つの学び」をまとめました。

  1. 「損得マシーン」を超えよ: 全ての行動をコスパや損得で判断するのをやめる。自分の価値観に基づき、「やりたいからやる」「助けたいから助ける」という動機を大切にする。
  2. 自分の言葉で語る訓練をする: 他人の受け売りの言葉や常識に頼らず、自分の内側から湧き出る感情や考えを言葉にする努力をする。日記を書く、信頼できる仲間と深く語り合う場を持つなどが有効。
  3. 「掟」の感覚を思い出す: 法律やルールといった明文化された「法」だけでなく、地域や仲間内で受け継がれてきた暗黙のルール「掟」を尊重する。それは持続可能な共同生活のための知恵である。
  4. 「ご先祖様に顔向けできるか?」と自問する: 自分の行動が、時間的・空間的に広い視野で見て「恥ずかしくないか」を常に問う。それは自分だけの損得を超えた、大きな視点を与えてくれる。
  5. いざという時に頼れる仲間を作る: ネット上の繋がりだけでなく、物理的に近くにいて、有事の際に助け合えるリアルな人間関係を築く。地域の活動に参加する、共通の趣味の仲間を見つけるなど、具体的な一歩を踏み出す。

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5.【実践】アウトプット習慣チェックリスト

学んだことを行動に移してこそ、変化は生まれます。以下のチェックリストを使って、共同体感覚を取り戻すためのアウトプットを習慣にしましょう。

アウトプット習慣チェックリスト

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おわりに:荒野を仲間と生きる

宮台氏が提示する未来は、決して楽観的なものではありません。市場や行政という巨大なシステムが機能不全に陥っていく中で、私たちは「社会という荒野を仲間と生きる」ことを余儀なくされるかもしれません。

しかし、それは絶望的な未来ではないはずです。ご先祖様との繋がりを取り戻し、損得を超えた価値観で助け合える仲間がいれば、どんな困難な時代でも人間らしく、豊かに生きていけるのではないでしょうか。

まずは、忘れることから抗うこと。そして、身近な人間関係を、一つひとつ丁寧に紡ぎ直すこと。この記事が、その小さな一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。

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