誰もが歓迎されるチームの落とし穴

「もしチームの全員が初心者レベルだったら、自分の子を行かせたいとは思いません。挑戦できる環境がなくなってしまうから。」

これは、先日ある保護者の方からいただいた、率直かつ非常に重いご意見です。「誰でも上達できる環境を！」という、一見すると誰もが賛同するであろう理想論が、現実には「魅力のないチーム」を生んでしまう危険性を、この言葉は鋭く突きつけています。

“見本となるような人のいない練習会場に魅力はない”

私たちは、この言葉を真摯に受け止めなければなりません。ただ優しいだけ、ただ受け入れるだけの環境は、本当に選手の成長のためになるのでしょうか。むしろ、向上心を持つ選手の「挑戦したい」という意欲を削いでしまうのではないか。そんな厳しい問いが、ここにあります。

「ここにいてもいい」の新しい基準

一方で、多くの親御さんが「厳しさの中でチャレンジさせたい」という思いと、「安心して通える環境であってほしい」という思いの間で揺れ動くのも、また事実です。では、成長につながる「安心」とは、一体何なのでしょうか？

その答えのヒントが、同じ保護者の方の次の言葉にありました。

この言葉は、「安心」の定義を根底から覆す力を持っています。これまで私たちが無意識に拠り所としてきた「自分より下が（技術的に未熟な人が）いるから安心」という相対的な基準は、他者との比較の上に成り立つ、脆い土台でしかありません。

真の安心とは、他者との比較ではなく、過去の自分との比較の中に生まれるのではないでしょうか。そして、その「昨日の自分を超えたい」という挑戦する意志そのものが、周囲から温かく肯定される環境。それこそが、私たちが目指すべき「安心できる場所」の姿なのです。

問い続ける勇気

この記事を読んでくださっているあなたに、改めて問いかけたいと思います。

あなたは今、どんな基準で自分の「居場所」を判断していますか？

「自分が一番下手ではないか」という他者との比較に、心をすり減らしてはいないでしょうか。理想では違うと分かっていても、現実にはその物差しから逃れられずにいる、ということはないでしょうか。

この問いと向き合うことは、時に痛みを伴うかもしれません。しかし、この自己対話こそが、停滞した「安心」から抜け出し、成長へとつながる「挑戦的な安心」を手に入れるための第一歩です。

挑戦を肯定する環境を作るためのヒント

• 今日の目標を一つ決める：大きな目標ではなく、「昨日の自分」を少しだけ超える小さな目標を立て、達成を目指す。
• 上手い人を観察し、質問する：「すごい」で終わらせず、「なぜそう動けるのか」「何を意識しているのか」を具体的に観察し、勇気を出して質問してみる。
• 自分の考えを言語化する：感じていること、悩んでいることをコーチや仲間に言葉で伝えてみる。言語化の過程で、自分の現在地が明確になる。
• 仲間の挑戦を応援する：他人の小さな進歩や挑戦する姿勢に気づき、それを声に出して称賛する。その文化が、自分も挑戦しやすい空気を作る。