「目の前の1点を、全力で取りに行く」。これは、あらゆる勝負事における鉄則のように聞こえます。バドミントンの試合も、1点ずつの積み重ねで勝敗が決まるため、この考えは当然のことでしょう。

しかし、もし「あえて相手に点を与える」ことが、最終的な勝利への近道になるとしたら、あなたはどう考えますか？

一見、矛盾しているように聞こえるこの格言には、短期的な損得を超えた、深い戦略的思考が隠されています。この記事では、なぜ「一点を取りに行くのが最適とは限らない」のか、その真意を解き明かし、あなたのプレー、さらには日常や仕事にも活かせる「長期的視点」を育むヒントを提供します。

一つ目の理由は、相手の心理を巧みに操るためです。試合の流れを自分の得意なパターンに持ち込みたい時、あえてそのラリーでミスをするのです。

例えば、あなたが特定の配球パターンを試したとします。そのラリーであなたがミスをすると、相手は「このパターンは有効だ」「相手はこの攻めが苦手なんだ」と誤って認識する可能性があります。

相手がその「正解」だと信じ込んだパターンに固執するよう仕向けることができれば、試合の後半、ここぞという場面でその裏をかき、決定的なポイントを奪うことができるのです。これは、目先の1点を犠牲にして、より大きなアドバンテージを得るための高度な心理戦と言えるでしょう。

二つ目の理由は、自分自身の成長のためです。すべての失点が「悪いもの」とは限りません。中には、将来の飛躍につながる「価値ある失点」も存在するのです。

例えば、格上の相手と対戦している時、安全策ばかりでは自分の限界を超えることはできません。あえて厳しいコースを狙ってスマッシュを打ってもらい、そのレシーブを練習する。たとえその1点を失ったとしても、その経験から得られる学びは、次の試合、さらには1年後の自分を大きく成長させる糧となります。

目の前の1失点に一喜一憂するのではなく、それを「未来の自分への投資」と捉えることができるか。この視点の転換が、長期的な成功を掴むための鍵となります。

この「長期的戦略」は、バドミントンだけに留まりません。私たちの仕事や学習、人間関係においても非常に有効です。

• ビジネスの交渉：目先の小さな利益を相手に譲ることで、より大きな契約や長期的な信頼関係を築く。
• 新しいスキルの学習：最初から完璧を目指さず、たくさん失敗（失点）することで、結果的に早くスキルを習得する。
• チームマネジメント：メンバーに責任ある仕事を任せ、たとえ失敗してもらう。その経験が本人の成長とチームの強化につながる。

目の前の「勝ち」や「成功」にこだわりすぎず、一歩引いて全体像を捉えることで、より豊かで本質的な成果を手にすることができるのです。