格言:「経験は水、言葉は器」
1日で74%忘れる脳を、成長資産に変える言語化の技術
なぜ貴重な経験は、すぐに消えてしまうのか?
試合での劇的な勝利、練習で掴んだ新しい感覚、コーチからの金言。スポーツに限らず、私たちは日々、成長に繋がるはずの貴重な経験をしています。
しかし、悲しいことに、それらの多くは意識の表面を滑り落ち、記憶の奥底へと沈んでいきます。ドイツの心理学者ヘルマン・エビングハウスが提唱した「忘却曲線」によれば、人は学習したことの実に74%を、わずか1日で忘れてしまうというのです。
昨日あれほど感動したことも、悔しかった思いも、今日にはもう輪郭がぼやけている。そんな経験は誰にでもあるのではないでしょうか。それは、あなたの記憶力が悪いからではありません。人間の脳が、そのようにできているのです。
格言に学ぶ「言語化」の本当の意味
では、この抗いがたい忘却の流れにどう立ち向かえば良いのでしょうか。その答えが、今回のテーマである「言語化」にあります。私たちは、この真理を次のような格言で表現しています。
経験は水、言葉は器。
器なくして、水は流れ去るのみ。
経験そのものは、流れる水のように形がなく、掴みどころがありません。そのまま放置すれば、大地に染み込み、蒸発して消えてしまいます。しかし、「言葉」という器を用意することで、その水を汲み取り、保存し、いつでも好きな時に味わうことができるようになります。
これが「言語化」の本質です。感じたこと、考えたこと、学んだことを、話す、書くといった具体的な言葉に変換する行為。それは、曖昧な体験に輪郭を与え、脳に「これは重要な情報だ」とタグ付けする作業なのです。
5年前の記憶が蘇った、驚きのエピソード
この「言語化」の力は、決して机上の空論ではありません。先日、「闘将」として知られる車祥幸氏と話す機会がありました。話題は、なんと5年も前の試合についてです。
言語化が呼び覚ました鮮明な記憶
普通なら詳細を忘れていてもおかしくない5年前の出来事。しかし、驚くべきことに、試合の展開やその時の感情について、二人とも驚くほど鮮明に語り合うことができました。
なぜなら、私たちは当時、その試合について何度も言葉を交わし、分析し、アウトプットしていたからです。一度「言葉」という器に注がれた経験は、5年という歳月を経ても色褪せることなく、私たちの脳に保管されていたのです。
※車氏の鋭い分析は、こちらのダブルス解説動画でもご覧いただけます。
この出来事は、体験をただ消費するのではなく、言語化によって「資産」として蓄積することの重要性を改めて教えてくれました。
今日からできる!体験を資産に変える3つのアクション
「言語化が大切なのはわかった。でも、具体的に何をすればいいの?」と感じるかもしれません。難しく考える必要はありません。まずは簡単なことから始めてみましょう。
1. ひとこと日記をつける
練習後や試合後、スマートフォンやノートに「今日の気づき」を一行だけでも書き留めましょう。「〇〇のショットが良かった」「次は△△を意識しよう」など、簡単なメモで十分です。書くことで、脳は記憶を整理し始めます。
2. 仲間と語り合う
練習仲間や友人に、その日のプレーについて話してみましょう。「あの時どう思った?」「こうすれば良かったかな?」と意見交換する中で、自分一人では気づけなかった視点や発見があります。対話は、最高の言語化トレーニングです。
3. 自分に質問する
「なぜ上手くいったんだろう?」「何が課題だったんだろう?」と、自分自身に問いかける習慣を持ちましょう。問いが、思考を深め、経験から学びを抽出するきっかけになります。答えを声に出してみるのも効果的です。
まとめ:すべての経験を未来の力に
貴重な経験は、ただ体験するだけでは流れ去ってしまいます。しかし、「言葉」という器を使えば、その一滴一滴を未来への力として蓄えることができます。
忘却は、敵ではありません。脳が効率的に働くための自然な機能です。私たちのすべきことは、その機能と上手く付き合い、「これは忘れたくない」という大切な経験を、言語化によってマーキングしてあげることです。
さあ、今日からあなたの「器」を用意して、
すべての経験を成長の糧に変えていきましょう。