「なぜ、あの場面でミスをしたんだろう?」
「どうして、競り負けてしまったんだろう?」
格言:真の勝者は、結果ではなく過程を支配する。
一点の失点の裏には百の選択があり、
一点の得点の裏には千の布石がある。
試合の振り返りで、私たちはつい「最後のミス」や「決まったショット」という結果にばかり目を奪われがちです。しかし、その一点が生まれるまでには、無数のショットの応酬、ポジションの選択、戦術の駆け引きという、膨大な「過程」が存在します。この記事では、その忘れ去られがちな過程にこそ、成長の鍵が隠されていることを解き明かしていきます。
1. なぜ私たちは「過程」を忘れてしまうのか?
ラリーが終わった瞬間、私たちの記憶は得点か失点かという強烈な「結果」に上書きされてしまいます。試合の興奮や疲労も相まって、ラリー中の細かい駆け引きや思考の大部分は、霧の中に消えてしまうのです。
結果主義の罠
多くのプレイヤーが陥るのが、「結果主義の罠」です。
- ミスしたショットだけを反省する:「あのスマッシュがネットにかからなければ…」
- 決められた原因だけを分析する:「相手のカットが速すぎて追いつけなかった…」
- ラリーの途中経過を覚えていない:「どうやって、あの体勢に追い込まれたんだっけ?」
しかし、本当の原因は、その最終局面に至るまでの数ショット前、あるいはもっと前のポジショニングにあったのかもしれません。結果だけを見る振り返りは、問題の根本を見逃し、同じ失敗を繰り返す原因となります。
2. 全てのショットを振り返る「解像度」の高め方
勝利への道を拓くには、試合を振り返る「解像度」を極限まで高める必要があります。それは、ラリーの始点から終点まで、全てのショットとその意図を一本の線として捉える思考法です。
思考の連鎖を可視化する
一つのラリーを、以下のような問いで分解してみましょう。
- 第1打:サーブ/レシーブ
なぜそのコース、その球種を選んだのか? 相手の何を警戒し、何を狙っていたのか?
- 第2打、第3打…:展開の構築
相手の返球から何を読み取ったか? 次のショットで、どういう状況を作り出そうとしたか? 有利な体勢は維持できていたか?
- 分岐点となったショット
流れが変わったのはどのショットか? その選択は最善だったか? 他に選択肢はなかったか?
- 最終打:得点/失点
この結果は、それまでの過程が導いた必然だったのか? それとも偶然か?
このように、全てのショットを「なぜ?」で繋いでいくことで、見えなかった戦術的な意図や判断ミスが浮かび上がってきます。重要なポイントは、得失点という結果ではなく、そこに至るまでの「思考の過程」に隠されているのです。
3. 今日からできる「過程思考」トレーニング
「過程思考」は、日々の練習から意識することで誰でも身につけることができます。特別な機材は必要ありません。必要なのは、自分のプレーを客観視しようとする少しの意志だけです。
練習メニュー1:1ラリーごとの即時レビュー
ゲーム練習中、ラリーが終わるたびに10秒だけ時間を取ります。パートナーと「今のラリー、どうしてこうなった?」と一言だけ交わすのです。「3球目のロブが甘くなったのが原因だね」「相手を前に誘い出したまでは良かった」など、簡単な言葉で構いません。この即時フィードバックの習慣が、過程を記憶する能力を劇的に向上させます。
練習メニュー2:試合後の『脳内再生』ノート
試合や練習が終わった後、記憶が新しいうちにノートを開き、印象に残ったラリーを思い出せる限り書き出します。完璧でなくても構いません。「サーブ→相手がクロスにヘアピン→自分がプッシュ…」のように、ショットの順番を書き出すだけでも、思考の整理に繋がります。特に、勝敗を分けたと感じる重要なラリーを2〜3個選んで深掘りするのが効果的です。
4. 未来の視点:AIと共に「過程」を分析する時代へ
これまで人間が感覚的に行ってきた「過程」の分析は、テクノロジーの進化によって新たな次元を迎えようとしています。特にAI(人工知能)の活用は、私たちの振り返りの質を根底から変える可能性を秘めています。
AIによるプレー分析の未来像
自分の試合動画をAIに読み込ませるだけで、AIが自動的に全てのショットをタグ付けし、ラリーの分岐点を特定。「この場面では、ストレートにクリアを打った場合の勝率が75%だったのに対し、実際に行ったクロスカットの選択では勝率が40%に低下しました」といったように、客観的なデータに基づいたフィードバックを提供してくれる。そんな未来がすぐそこまで来ています。
Phoenix-Aichiオンライン教室では、こうした最先端の技術動向も注視し、将来的にはAIを活用した新しい指導法も取り入れていきたいと考えています。しかし、どんなに技術が進歩しても、最終的にコート上で判断し、実行するのは自分自身です。技術を使いこなすためにも、まずは自らの力で「過程」を思考する習慣を身につけることが、何よりも重要なのです。
