2025年8月20日オンライン教室レポート:「経験は水、言葉は器」—価値観の言語化が本物の強さを生む
DATE: 2025年8月20日
1. Opening: なぜ経験はすぐに消えてしまうのか?
試合での劇的な勝利、練習で掴んだ新しい感覚。私たちは日々、成長に繋がるはずの貴重な経験をしています。しかし、その輝かしい瞬間も、翌日には74%も忘れてしまうという厳しい現実があります(エビングハウスの忘却曲線)。まるでざるから水がこぼれ落ちるように、大切な学びは記憶から消えていくのです。
この日のオンライン教室は、そんな「経験と忘却」のメカニズムから始まりました。コーチは、このこぼれ落ちる水を留めるための「器」の重要性を説きます。その器こそが「言語化」なのです。
【コーチ】(13:21)
経験は水、言葉は器ですね。まあこぼれていっちゃいますということですね。経験しても水なのでこぼれてちゃいました。…(経験は)器がない状態なので水がどんどんこぼれていってました。で、それを言語化しておくことによって、器になり、こぼれていくのを防げますよ。
【コーチ】(14:11)
5年も前の試合について。その時言語化したことを、読みながら話してたんですけども、もう鮮やかに記憶が蘇りましたよね。全く色褪せることなくね、私たちの脳に保管されていた。
5年前の記憶でさえ、書き留めた言葉を頼りに鮮やかに蘇る。日々の練習や試合で感じたこと、考えたことを一言でも日記やSlackに残す習慣が、未来の自分を支える強固な土台となります。ただ経験するだけでなく、それを言葉にして初めて、学びは自分の中に蓄積されていくのです。
今日のKey takeaway
経験は「感じる」だけでは不十分。「言葉にする」ことで初めて資産になる。 日々の気づきをSlackやノートに書き留める小さな習慣が、忘却という強敵からあなたの成長を守る最強の盾となる。
2. Deep Dive: トップ選手が語らない「価値観」の重要性
「自分の価値観を言葉にできますか?」——そう問われて、すぐに答えられる人は少ないかもしれません。コーチは「水中の魚が水の存在に気づかないように、我々もまた自らを縛る価値観の存在に気づかない」と指摘します。それは空気のように当たり前の存在だからです。
特に、トップ選手ほど自身の価値観を言語化しません。なぜなら、彼らは恵まれた環境で、勝利に繋がる価値観を「空気のように」自然と身につけてきたからです。彼らにとってそれは当たり前すぎて、強さの源泉がそこにあると自覚していないのです。
【コーチ】(16:40)
結構トップ選手ほど言語化してないですよね。恵まれた環境の中で自然と成長できる価値観っていうのを身につけてると空気のような存在になってます。彼らにとって当たり前すぎるので自分の強さの源泉がその価値観にあると自覚してません。
【コーチ】(17:24)
なので私たちは成功のロールモデルから言語化の必要性を学ぶ機会を逸すると。…成長したいと願う挑戦者はトップ選手の目に見える技術や練習法を懸命に真似します。しかしその土台にある見えない価値観までコピーしようとは考えません。
この「構造的な罠」により、多くの選手は目に見える技術ばかりを追い求め、その根底にある「なぜそうするのか」という価値観を見過ごしてしまいます。しかし、本当の成長は、この見えない土台に気づき、再構築することから始まるのです。
価値観に気づくための3つの技術
- 意図的に違和感を探す:「なぜ今、心がザワついたんだろう?」と感じた時がチャンス。その感情を深掘りしましょう。
- 「なぜ」を5回繰り返す:表面的な感情の奥に隠れた、あなたの核となる価値観が姿を現します。
- 言葉にして客観視する:頭の中の思考をノートやSlackに書き出す。アウトプットすることで、自分の考えを客観的に見つめ直せます。
3. Strategy: 大谷翔平も実践?「価値観トーナメント」で自分軸を発見する
では、具体的にどうやって自分の価値観を見つければいいのでしょうか。今回、コーチが紹介したのが「価値観トーナメント」というユニークで強力なツールです。これは、大谷翔平選手も自己分析に用いたと言われる手法です。
「楽しさ」「成長」「達成」「安定」など、12個の価値観をリストアップし、それらを1対1で戦わせます。「自分にとって、愛と幸福ならどちらがより重要か?」「挑戦と安定なら、どちらを優先したいか?」と自問自答を繰り返し、勝ち残ったものが、あなたの現在の価値観のトップ3となるのです。
【コーチ】(23:27)
あなたにも使えることですよと。で、具体的 事例入っていきたいと思います。1つ目、大谷翔平さん。お金より成長。…元々はこの金銭的価値を重視して たっていうところはあって…そこから変えてったということですね。で、変化後の価値観としてはそれが自己成長を最優先したと。
【中島さん】(32:14)
なんか2つずつ戦わせるのはランダムなんですか?
【コーチ】(32:14)
ランダムです。…別に1回でやめないね。1回で終わりじゃないですからね。こういうのってね。定期的に見直せばいいことだと思いますので。
大谷選手が巨額契約よりもメジャー挑戦を選んだ背景には、「金銭的価値」から「自己成長」への価値観の変化があったと言われています。このように、自分の軸となる価値観が明確になることで、迷いのない決断ができ、パフォーマンスは飛躍的に向上します。このトーナメントは一度きりではなく、定期的に見直すことで、自分の成長段階に合わせたコンパスとなってくれるでしょう。
価値観トーナメント・シミュレーション
【1回戦】 挑戦 vs 安定
思考プロセス:「安定も大事だが、今の自分は新しいスキルを身につけたい。挑戦なくして成長はないな…」 → 挑戦 の勝利!
【1回戦】 楽しさ vs 達成
思考プロセス:「ただ楽しいだけじゃなく、目標をクリアした時の喜びが大きい。達成感が次の楽しさに繋がる。」 → 達成 の勝利!
…このようにトーナメントを進め、自分だけのTOP3を決定します。
4. Video Analysis: 「セコビッチ」を封殺せよ!ラリーの質を問う戦術論
教室の後半は、動画分析。この日のテーマは、トリッキーなプレースタイルの塩沢選手(通称:セコビッチ)をどう攻略するか。彼のプレースタイルは、相手のミスを誘い、ラリーの質を下げ、とにかくその1点を取ることに特化しています。
コーチは、このような相手に対し、同じ土俵で戦うことの危険性を指摘します。彼の術中にはまり、力んでミスをしたり、慌ててしまったりすると、トーナメントで本当に戦うべき相手と当たる前に消耗してしまうのです。
【コーチ】(51:23)
仕留めに行く時大体肩口だから予想してください。こうふわっときて振りかぶっ…これ仕留めに来たな。肩口に来ると予測しておいてください。
【コーチ】(1:08:18)
セコビッチで大苦戦すると大体もうトーナメント優勝無理になってくる。セコビッチをいかに…簡単に勝っていくかってことも、やっぱ大事なんじゃない?優勝するには。
さらにコーチは、市民大会レベルでよく見られる「弱い方を狙う」という戦術についても、より高いレベルを目指す上での限界を説きました。意図的に片方を狙いすぎると、配球が読まれやすくなり、逆にカウンターを食らうリスクが高まります。それよりも、セオリー通りに分散して配球する中で、相手が自然にミスをするのを待つ方が、長期的には遥かに合理的で効果的なのです。
【コーチ】(1:12:47)
弱い方を狙って勝つっていうような発想してると市民大会レベル止まりです。大体その発想で勝てなくなるからさ、無理に狙っていくとその配球を読まれて、狙われてミスらされるっていうパターンになるから、あの弱い方を狙っていくっていう発想は早めにやめた方がいいんですよ。
ラリーの質を破壊する相手にどう向き合うか。それは、自分のプレースタイルと価値観が試される瞬間でもあります。目先の1点に惑わされず、質の高いラリーを続けること。それこそが、本物の強さへの道なのです。
5. Takeaways: コーチング的5つの学び
今回の教室は、コート上の技術だけでなく、選手としての「あり方」を深く問うものでした。重要なポイントを5つに凝縮して振り返ります。
経験は水、言葉は器
素晴らしい経験も言語化しなければ記憶から消え去る。日々の気づきを書き留める習慣こそが、成長を確実なものにするための「器」となる。
「見えない価値観」こそ強さの源泉
トップ選手の技術を真似るだけでは不十分。その根底にある価値観(なぜそうするのか?)を理解し、自分のものにしようとすることが成長の鍵。
自分軸を発見する「価値観トーナメント」
何のためにプレーするのか?「価値観トーナメント」のようなツールを使い、自分の行動の原動力となる価値観を明確にすることで、迷いが消えパフォーマンスが向上する。
ラリーの質を破壊する相手を封殺せよ
トリッキーな相手の土俵に乗らない。パターンを予測し、冷静に、簡単に処理することで消耗を防ぐ。優勝への道は、賢いエネルギー配分から始まる。
「弱い方を狙う」は低レベルな戦術
上のレベルでは、安易に弱い方を狙う戦術は読まれ、逆効果になる。確率論に基づき、自然に分散して配球する方が、結果的に勝利に繋がる。
【コーチ】(1:15:16)
分散してやってく中で勝手に三橋がミスるでしょう。そういう考えが一番合理的なのかな、と私は思ってます。…大体ね、そういう風に片方狙っていけみたいに言ってるのって下の方のレベルの人ぐらいでしょ。
6. Action: アウトプット習慣チェックリスト
学びを行動に変えてこそ、真の力となります。今日のインプットを、明日からの成長に繋げるための具体的なアクションリストです。一つでもいいので、今日から実践してみましょう。
アウトプット習慣チェックリスト
7. Closing: 言葉をコンパスに、成長の旅へ
「経験は水、言葉は器」。この日の教室で繰り返し語られたこの言葉は、私たちの成長の本質を鋭く突いています。ただ闇雲に練習をこなすだけでは、大切な学びは次々とこぼれ落ちてしまいます。自分の内なる声に耳を澄まし、価値観を言語化し、日々の経験を言葉として蓄積していくこと。その地道な作業こそが、誰にも真似できない、あなただけの強さを築き上げるのです。
なぜプレーするのか?何を大切にしたいのか?その答えが明確になった時、あなたのプレーは一段と輝きを増すはずです。言葉というコンパスを手に、終わりなき成長の旅を続けましょう。
【コーチ】(1:15:46)
結局ああ、9時半で終わろうと思ったのにダメですね、本当。はい、すいません。早く寝ましょう。また。ありがとうございます。
【参加者】
ありがとうございました。失礼します。
次回のオンライン教室も、皆さんのご参加を心よりお待ちしています。それまで、一つでも多くの経験を「言葉の器」に満たしておいてください。