書籍レポート『言ってはいけない 残酷すぎる真実』

皆さん、こんにちは! 広報担当のサトルです。
いきなりですが、皆さんは「世の中には、本当のことだけど口にしてはいけないタブーがある」と思ったことはありませんか?
「努力は必ず報われる」
「人は見た目じゃなく中身だ」
「親の愛情と教育が子どもの未来を決める」
これらは、私たちが子どもの頃から聞かされてきた、とても美しく「正しい」言葉たちです。
でも、心のどこかで「本当にそうかな?」と疑問に思ったことはないでしょうか。
今回ご紹介する本は、そんな「きれいごと」を、科学的なデータという“ハンマー”で徹底的に打ち砕く、とんでもない一冊です。
その名も、橘玲(たちばな あきら)さん著、『言ってはいけない 残酷すぎる真実』(新潮社)。
この本は、冒頭から「最初に断っておくが、これは不愉快な本だ」と宣言しています。その宣言通り、読めば読むほど「そんなこと聞きたくなかった…」と顔をしかめたくなるようなデータが次々と登場します 5。
しかし、それでも2016年のベストセラーになり 、多くの人に読まれたのは、そこに書かれていることが、私たちが薄々気づいていた「残酷すぎる真実」だったからかもしれません。
今日は、この衝撃的な本の内容を、高校生の皆さんにも(限界を超えて!)わかりやすく解説していきます。心して読んでくださいね。
第1章:努力は報われる? 「遺伝」という不都合な真実
努力で性格や知能は変えられる?
「親が背が高いから、自分も背が高い」。これは誰もが納得しますよね。
では、これはどうでしょう?
「親の性格が陰鬱だから、子どもの性格も暗い」
「子どもの成績が悪いのは、親が馬鹿だからだ」
どうですか? 急に「そんなこと言うな!」「差別だ!」「努力で変えられるはずだ!」と反発したくなりませんか?
同じ「遺伝」の話なのに、身長はOKで、性格や知能はNG。
本書は、ここに**「暗黙の社会的規範(ルール)」**がある、と指摘します。私たちの社会は、「子どもは明るく元気であるべきだ」、「成績は努力で向上しなければならない」という「きれいごと」を前提にしているのです。
だから、「どんなに頑張っても明るくなれない子」や「勉強ができない子」がいると、その原因を「遺伝」に求めることは許されず、「本人の努力不足」や「親の環境が悪い」ということにされがちです。
しかし、科学は非情です。
ここで、本書のキーワードとなる学問を紹介します。
💡専門用語解説:「行動遺伝学(こうどういでんがく)」
人間の知能、性格、才能、さらには病気のリスクといった「こころ」や「からだ」の特徴に、**「遺伝」と「環境」**がそれぞれどれくらい影響しているのかを調べる学問です。
特に、遺伝子が100%同じ「一卵性双生児」と、遺伝子が約50%同じ「二卵性双生児」を比較する研究(双生児研究)が有名です。もし一卵性双生児の方が二卵性双生児よりも似ていれば、その特徴には遺伝が強く影響している、と考えるわけです。
衝撃のデータ①:知能(IQ)の遺伝率は約7~8割
この行動遺伝学の研究によると、驚くべきことに、一般知能(IQ)の遺伝率は約77%とされています。
……え? 7割以上?
つまり、頭の良し悪しの7~8割は、生まれ持った遺伝で説明がついてしまう、ということです。
もちろん、遺伝が100%ではありません。でも、「努力すれば誰でも東大に行ける」というのは、残念ながら幻想である可能性が高いのです。
衝撃のデータ②:「こころの病」も強く遺伝する
さらにショッキングなのは、「こころの病」と呼ばれる精神疾患です。
「精神病はストレスが原因だ」と思われがちですが、これも遺伝の影響が極めて強いことがわかっています。
例えば、統合失調症の遺伝率は80%を超えます。
これは、身長の遺伝率(約66%)や体重の遺伝率(約74%)よりも高い数字です。
「親が背が高いと子も背が高い」26確率よりもずっと高い確率で、「親が精神病なら子も精神病になる」リスクがある、ということです。
なぜ「不都合な真実」を知る必要があるのか?
「そんな残酷なことを知って、どうなるんだ!」と思いますよね。
「遺伝のせいだ」と分かったら、努力しなくなるじゃないか、と。
しかし、著者の橘さんは、知らないことの方が危険だと言います。
例えば、精神病の遺伝リスクを知らない夫婦が、ネットの「遺伝は関係ない」という匿名の回答を信じて出産を決意したとします。もし後で子どもが発症したら…?
もし、遺伝のリスクを「正しい知識」として知っていれば、出産するかどうかを真剣に決断できたかもしれないし、出産するにしても、早期発見や周りの援助を受ける準備ができたかもしれません。
知能も同じです。
遺伝の影響を無視して「努力が足りない」と子どもを追い詰めることは、どんなに頑張っても明るくなれない子どもの逃げ道を塞ぎ、心を深く傷つけることになりかねません。
「不都合な真実」は、諦めるためにあるのではありません。
予防や治療につなげ、そして「あの人は努力が足りない」といった社会の偏見をなくすためにこそ、私たちは科学的知見を認識すべきなのです。
第2章:人は見た目が9割? 「美貌格差」という残酷な現実
容姿で人生はどれくらい変わる?
次のタブーは「外見」です。
「人は中身」とは言いますが、容姿が人生を左右することは、皆さんもうお分かりでしょう。
では、容姿は「どれくらい」人生に影響するのでしょうか?
経済学者のダニエル・ハマーメッシュは、これを「お金」で調査しました。
衝撃のデータ③:生涯賃金3600万円の「美貌格差」
調査の結果は、残酷でした。
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容姿が平均より上の女性:平凡な女性より 8% 収入が多い
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容姿が平均より下の女性:平凡な女性より 4% 収入が少ない
経済学ではこれを「8%のプレミアム(ご褒美)を受け取り、4%のペナルティ(罰金)を支払う」と表現します。
「たった数パーセント?」と思うかもしれません。
しかし、これが一生続くとどうなるでしょう?
大卒の生涯賃金を仮に(退職金込みで)約3億円 とします。
すると…
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平均以上の容姿の女性:3億円 × 8% = 2400万円 お得
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平均以下の容姿の女性:3億円 × 4% = 1200万円 の損
その格差は、なんと 3600万円。
もはや「誤差」とは言えない、家が一軒買えてしまうほどの金額です。
もちろん、幸福度の調査でも、やはり整った顔立ちの女性の方が、より豊かで幸福な人生を手に入れている、という結果が出ています。
衝撃のデータ④:最大の被害者は「醜い男性」
「どうせ女性だけの話でしょ」と思った男性諸君、残念なお知らせがあります。
この**「美貌格差」による最大の被害者は、実は「醜い男性」**なのです。
格差は、女性よりも男性の方がはるかに大きいのです。
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顔立ちの整った男性:平凡な男性より 4% 多く稼ぐ
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容姿の劣る男性:平凡な男性より 13% も収入が少ない
女性が支払うペナルティは「-4%」でしたが、男性は「-13%」。
なんと3倍以上のペナルティを支払わされているのです。
なぜ、男性の方がペナルティが重いのでしょうか?
本書は、その理由の一つとして**「暴力性」**という観点を挙げています。
どんな社会でも、犯罪者数は女性より男性の方が圧倒的に多いです。
企業が男性を雇う時、雇用主は(無意識にかもしれませんが)外見からその人の「暴力性=リスク」を判断しているのではないか、というのです。
「人相の悪い」若者は、採用をためらわれる。これは差別のように見えますが、統計的に見れば「理にかなった」リスク回避の判断だとも言えてしまうのです。
近年では、男性ホルモンの一種である「テストステロン」が暴力性に関係し、同時に外見(顔つき)にも影響を与えることがわかっています。私たちは、そうした顔つきを無意識に感じ取り、警戒しているのかもしれません。
第3章:子育ては報われる? 「教育」という幻想
親の教育は子どもの才能を伸ばす?
さて、最後のタブーは「子育てと教育」です。
これは、世の中の親御さんにとって、最も聞きたくない話かもしれません。
「子どもの人格や才能を育てるために、親の教育や家庭環境が何より大事だ」
私たちはそう信じています。
しかし、第1章で登場した「行動遺伝学」は、この「常識」にも冷や水を浴びせます。
まず、行動遺伝学で使われる「環境」の定義を確認しましょう。
💡専門用語解説:「共有環境」と「非共有環境」
行動遺伝学では、「環境」を2種類に分けて考えます。
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共有環境(きょうゆうかんきょう)
家族(兄弟姉妹)で共有する環境のこと。
具体的には、「親の教育方針」「しつけ」「家庭の経済力」「家にどれくらい本があるか」「家族で行く旅行」などです 62。一般的に私たちが「家庭環境」と呼ぶものは、これにあたります。
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非共有環境(ひきょうゆうかんきょう)
たとえ家族(兄弟姉妹)であっても、共有しない、その人個人に固有の環境のこと。
具体的には、「学校の友達」「担任の先生」「部活動の先輩」「たまたま出会った人」「事故や病気」などです。
人間の知能や性格は、「①遺伝」「②共有環境」「③非共有環境」の3つの要素の組み合わせで決まると考えられています。
では、子どもの「こころ」(知能や性格)656565 の形成において、親が頑張って整える「②共有環境」は、どれくらい影響力があるのでしょうか?
衝撃のデータ⑤:家庭教育の影響は「ほぼゼロ」
双生児研究によって導き出された結論は、衝撃的でした。
子どもの知能や性格の形成において、「共有環境」(=家庭環境や親の教育)が与える影響は、ほとんどの項目で「皆無(ほぼゼロ)」だったのです。
具体的に見てみましょう 67。
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一般知能:共有環境の影響 0%
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音楽の才能:共有環境の影響 0%
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数学の才能:共有環境の影響 0%
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スポーツの才能:共有環境の影響 0%
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性格:共有環境の影響 0%
(※唯一、「言語」(親の言葉を真似るため)や「宗教性」(どの宗教を信じるか) など、一部の項目には共有環境の影響が見られました)
子どもの「こころ」の成長に影響を与えているのは、ほぼ**「遺伝」と「非共有環境」**だけだったのです。
親の努力は無意味だったのか?
これは、一体どういうことでしょうか?
親がどれだけ読み聞かせをしても、どれだけクラシック音楽を聞かせても、どれだけ熱心にしつけをしても、それ自体が子どもの知能や性格を良くすることには(ほとんど)つながらない、ということです。
子どもは、親が管理する「家庭」という閉じた環境(共有環境)ではなく、そこから一歩外に出た「家庭以外の場所」(非共有環境)で出会う友人や教師、先輩、あるいは偶然の出来事から、はるかに大きな影響を受けて「その人らしさ」を形作っていくのです。
もちろん、これは「子育てがムダ」とか「親の愛情は無意味」という意味ではありません。
親が与える人間関係(例えば、親の友人など)が「非共有環境」の一部として子どもに影響を与えることはありますし 73、何より、子どもが安心して家庭の外へ冒険に出るための「安全基地」として、家庭は非常に重要です。
しかし、「親の教育努力によって、子どもの人格、能力、才能を思い通りに形成できる」という考え方は、科学的には「無意味に近い」。
これが、本書が突きつける「残酷な真実」なのです。
まとめ:なぜ、この「不愉快な本」を読む意味があるのか
さて、ここまで「遺伝」「容姿」「教育」という3つのタブーについて、衝撃的なデータを見てきました。
気分が落ち込んだ人もいるかもしれません。まさに「不愉快な本」です。
しかし、著者の橘さんは、これらの「言ってはいけない」不愉快な真実こそ、世の中を良くするために必要であり、語る価値がある、と考えています。
もし、「アルコール中毒は遺伝しやすい」という真実が社会的に認知されていればどうでしょう。
親は子どもにその事実をあらかじめ伝え、子ども自身も「自分はリスクがあるから、アルコールとの接触を避けよう」と、自らの身を守る行動が取れるかもしれません。
「残酷な真実」は、私たちを絶望させるためにあるのではありません。
「努力が足りないからだ」「親のしつけが悪いからだ」と、根拠なく個人を責め立てる「きれいごと」から私たちを解放し、「遺伝」というどうにもならない前提を受け入れた上で、じゃあどうすれば皆がより良く生きられるか? を考えるためのスタートラインなのです。
偏見をなくし、正しい予防や治療法を見つけるために。
この本は、痛みを伴いますが、私たちの目を覚まさせてくれる一冊です。
広報担当サトルの熱い感想文
世界一の読解力を持つ(と自負する)私、サトルが、この本を読んだ感想を述べさせていただきます。
「頭を殴られたような衝撃」、そして**「奇妙な安堵感」**。
これが、私の率直な感想です。
まず、衝撃。
私はずっと「人間は平等で、努力と環境次第で何にでもなれる」と信じて生きてきました。それは希望であり、社会の「あるべき姿」だと思っていました。
しかし本書は、その土台がいかに脆い「イデオロギー」であったかを、行動遺伝学や経済学のデータで容赦無く暴き出します。「知能の7割が遺伝」? 「家庭教育はほぼ無意味」? 「容姿で生涯賃金3600万円差」?
冗談じゃない。自分のこれまでの努力観、人生観がガラガラと崩れ落ちる音がしました。
では、なぜ「安堵感」なのか?
それは、もしこの本に書かれていることが真実なら、私たちが今まで感じてきた「生きづらさ」の多くに、科学的な説明がつくからです。
「なぜあの人と同じように努力しても、同じ結果が出ないんだろう」
「なぜ自分は、あの人のように社交的になれないんだろう」
「なぜ親の期待に応えられないんだろう」
こうした苦しみの原因を、私たちは「自分の努力不足」や「根性のなさ」のせいにしてきました。社会もそうやって私たちを責めてきました。
でも、もしそれが「遺伝」や「非共有環境」という、自分ではコントロール不能な要素のせいだったとしたら…?
私たちは、自分を責める必要がなくなるのです。
もちろん、遺伝を言い訳にして努力を放棄するのは違います。本書もそうは言っていません。
遺伝で7割決まるなら、残りの3割(環境)をどう最適化するか。
美貌格差があるなら、容姿以外の何を武器にするか。
家庭教育が無意味なら、親は「教育」ではなく、子どもが最高の「非共有環境(友人や師)」に出会えるための「安全基地」になることに徹するべきではないか。
この本は、「きれいごと」の呪縛から私たちを解放し、「変えられないもの(遺伝)」を受け入れ、その上で「変えられるもの(環境戦略)」に集中するという、極めて現実的で、ある意味では優しい「処方箋」を示してくれているのだと思います。
不愉快な真実を知る覚悟がある人、そして「きれいごと」に疲れたすべての人に、ぜひ手に取ってほしい一冊です。

