正解なき時代、最強の武器は「納得感」である。
哲学的思考で迷いを断ち切る7つのステップ
「どの選択が正解か?」――私たちは人生の岐路に立つたび、存在しないはずの「唯一の正解」を探し求め、思考の迷路にはまり込みます。しかし、テクノロジーが進化し、価値観が多様化する現代において、万人共通の正解など、もはやどこにもありません。
では、どうすれば後悔のない選択ができるのか?
その答えは、「正解」を選ぶことではなく、たとえどんな結果になろうとも「自分はこの選択に納得している」と胸を張れる状態、すなわち「納得感」を自ら創り出すことにあります。この記事は、哲学者・小川仁志氏の著書『悩まず、いい選択ができる人の頭の使い方』を基に、誰でも実践可能な「哲学を使った選択思考」を紐解き、あなただけの答えを導き出すための具体的な方法論を提示します。
格言1:選ぶべきは「正解」ではない。「納得」である。
私たちは、選択を迫られると「最も得をする選択肢はどれか」「失敗しない道はどれか」と考えがちです。しかし、絶対的な正解がない以上、この問い自体が私たちを苦しめます。
本当に重要なのは、その結論に至った自分自身の思考プロセスを信頼できるかどうか。たとえ期待外れの結果に終わったとしても、「あの時の自分は、あらゆる可能性を考え抜いた末にこれを選んだのだ」と受け入れられる状態。それが「納得感」です。
SNSのアルゴリズムやAIのリコメンドが、知らず知らずのうちに私たちの選択を誘導する現代。自分で考え、納得して決断する力は、幸福度や心身の健康に直結するだけでなく、他人の価値観に振り回されず、自分自身の人生を生きるための「自由」そのものなのです。
格言2:「良い選択」は、3つのスキルから生まれる。
納得感のある選択をするためには、思考のOSをアップデートする必要があります。以下の3つのスキルを意識することから始めましょう。
スキル1:「悩む」のをやめ、「考える」
「悩む」とは、出口のない迷路を同じ場所でぐるぐる回っている状態です。一方、「考える」とは、「必ず答えは出る」という前提に立ち、解決に向けて前進しようとする知的作業。この2つは似て非なるものです。まずは、思考停止の「悩み」から、解決志向の「考え」へと切り替えましょう。
スキル2:「最後は自分で決める」と覚悟する
他人の意見は参考にしても、最後の引き金を引くのは自分自身。この覚悟がなければ、うまくいかなかった時に他責にし、後悔が生まれます。自分の人生のハンドルは、断固として自分で握り続けることが重要です。
スキル3:「ファイナルアンサーではない」と知る
「一度決めたら後戻りできない」というプレッシャーは、決断を鈍らせます。しかし、一つの選択の意味は、その後の行動や出来事によって常に変化し続けます。「初志貫徹」も美しいですが、状況に応じてしなやかに選択を更新し続ける柔軟性こそ、現代を生き抜く知恵です。
格言3:答えは「見つける」な。「創り出す」7つの型を使いこなせ。
ここからが本題です。古今東西の哲学者が実践してきた思考法を、誰でも紙とペンさえあれば実践できるよう体系化した「哲学を使った選択思考」7つのステップを紹介します。
ステップ1:核となるワードを一つ選ぶ▼
解決したい問題を、抽象的でシンプルな一語に落とし込みます。例えば「上司との人間関係に悩んでいる」なら、「人間関係」と設定します。「あの上司との付き合い方」のように具体的すぎるのはNG。抽象化することで、問題の本質に迫りやすくなります。
ステップ2:定義する▼
ステップ1で選んだワードを、辞書的な意味ではなく「今の自分が感じるまま」に一文で定義します。例:「人間関係とは、苦手な他者との付き合い方のことである。」
ステップ3:疑う▼
ステップ2の定義に、あらゆる角度からイチャモンをつけます。「人間と動物の関係は?」「『苦手』は単なる『嫌い』と同じか?」など。こうして自分の無意識の思い込みや固定観念を洗い出し、「思考の大掃除」をします。
ステップ4:視点を変える▼
自分を人間ではない「モノ」や「概念」になりきって、ワードを捉え直します。例えば「ガム」の視点から「人間関係」を見ると、「まだ噛み方が足りないんじゃないか?」という新しい発想が生まれるかもしれません。常識の枠から飛び出すための思考実験です。
ステップ5:再構成・再定義する▼
ステップ2~4で出てきた言葉や発想の中から、自分が「しっくりくる」と感じる要素をいくつかピックアップし、それらを組み合わせて新しい定義を創ります。「あったらいいな」という理想も加えてOK。例:「人間関係とは、よく噛んで味わい、モノにすること。」
ステップ6:コンセプト化する▼
ステップ5で生まれた新定義に、ユニークな名前(コンセプト)をつけます。著者は「人間噛んで」という言葉を生み出しました。これにより、「当たり障りなくやり過ごす」ものだった人間関係が、「味わい尽くすために深く関わる」ものへと、行動指針が180度転換します。
ステップ7:選択する▼
ステップ6で生まれた自分だけの新しいコンセプトを「選択基準」として、具体的な行動を選びます。「人間噛んで」を基準にするなら、「苦手な上司にこそ、ランチに誘って深く話を聞いてみよう」という、これまで考えもしなかった新しい選択肢が生まれるのです。これこそが、自ら創り出した基準による、納得感のある選択です。
最後の格言:あなたは、あなたの人生の哲学者たれ。
この7つのステップは、既存の選択肢から「正解」を探す作業ではありません。常識や他人の価値観から自らを解放し、「自分が本当に望むことは何か」を問い直し、自分だけの答え(選択基準)を能動的に創り出すための技術です。
サルトルが言うように、私たちは自らの選択によって自分自身を創り上げていく存在です。AIにすすめられた道を歩むのも一つの選択ですが、自らの頭で考え抜き、納得のいく道を切り拓く経験こそが、人生を豊かにするのではないでしょうか。
今日から、あなたも自分自身の人生の哲学者として、納得感のある選択を積み重ねていきましょう。