2025年9月11日オンライン教室レポート

人は弱い。だから「仕組み」で凡は非凡を超える。
キーエンス流『性弱説』に学ぶ、再現性の高い成果創出術

霧深い森の中をまっすぐに伸びる木道―『仕組み』が成功へと導く道を象徴する風景
人の弱さを前提とし、ゴールまで導く「仕組み」の重要性

格言:意志の力に頼るな、仕組みを信じよ。

「今度こそ頑張る」「部下を信じて任せよう」「きっとうまくやってくれるはずだ」。私たちはつい、人の善意や能力、そして意志の力に期待してしまいます。しかし、現実はどうでしょうか。「言ったはずなのに、なぜやらないんだ」と頭を抱えたり、「目標未達でした、申し訳ありません」という言葉にため息をついたり…。そんな経験はありませんか。

多くの組織が陥るこの問題の根源は、人を「できるはず」と考える**『性善説』**にあるのかもしれません。今回ご紹介するのは、この常識を根底から覆す、キーエンスの経営哲学**『性弱説』**です。「人は本来、弱い生き物である」。この冷徹とも思える事実から出発し、人の弱さを織り込み済みの「仕組み」を構築することで、驚異的な成果を叩き出す。その神髄に迫ります。

1. 幻想の「性善説」と現実の「性弱説」

ビジネスの現場で、私たちは無意識に「性善説」に立っています。「正しく指示すれば、人は動いてくれる」「マニュアルがあれば、その通りやってくれる」と信じているのです。しかし、キーエンスはこの前提を疑います。彼らが依拠するのは**「性弱説」**。これは、人は本来弱い生き物で、「難しいことは避けたがり」「目先の楽な道を選んでしまう」という人間観です。

性善説の罠

  • 「ちゃんと頼めば、完璧にやってくれるはず」
  • 「常識的に考えて、これは分かるはず」
  • 「スケジュールを伝えたから、守ってくれるはず」

性弱説の視点

  • 「頼んでも、抜けや漏れは発生するかもしれない」
  • 「分かっているつもりでも、実は理解していないかも」
  • 「伝えただけでは、その通りに進まないかもしれない」

この前提の違いが、結果に天と地ほどの差を生み出します。「できるだろう」と楽観視するのではなく、**「できないかもしれない」**という前提からスタートし、「どうすればできる確率を極限まで高められるか?」を徹底的に考え、システムとして実装する。それがキーエンス流の強さの源泉なのです。

▲TOP

2. 「できないかも」を成果に変える無敵の仕組み

性弱説は、単なる精神論ではありません。人の「弱さ」を具体的な「仕組み」でカバーしてこそ、真価を発揮します。キーエンスが実践する、誰がやっても成果が出てしまう巧妙な仕組みの一部を見てみましょう。

「報連相」を「事前報告」に変えるだけで、失敗は9割防げる

一般的な会社では、商談後に「なぜ予算を聞いてこなかったんだ!」と上司が部下を叱責する光景があります。これは、上司が「予算の重要性は分かっているはず」と性善説で考えているからです。

キーエンスでは、商談の「前」に**事前報告**を義務付け、ロールプレイングを行います。上司は部下がどんな準備をし、どんなスキルで臨むかを確認し、指導するのです。「部下は重要なことを聞き忘れるかもしれない」という性弱説に基づき、失敗する可能性を事前に潰します。

会議で「謝罪」は不要。「真因」の追及こそが未来を作る

目標未達の際、「努力が足りませんでした」と謝罪で終わる会議。これは「反省すれば次は頑張るだろう」という性善説の産物です。しかし、原因が個人の努力不足だけとは限りません。

キーエンスの会議では、謝罪ではなく**真因**を求めます。「なぜ失注したのか?」「顧客の決裁プロセスを把握していたか?」「費用対効果を提示できていたか?」と、事実をメカニズムで解明し、次のアクションを具体的に決定します。「指摘しないと、同じ失敗を繰り返すかもしれない」という性弱説が、組織の学習能力を高めるのです。

「1分の価値」を意識させる日報の仕掛け

「時間を大切に」と標語を掲げても、人の行動はなかなか変わりません。「人は時間を無駄にしてしまうかもしれない」という性弱説に基づき、キーエンスでは日報に**面談時間を1分単位で記録**させます。

この単純な行為が、社員一人ひとりに「自分の1時間あたり、どれくらいの価値を生み出すべきか」を日々意識させ、生産性に対する感度を研ぎ澄まさせるのです。

▲TOP

3. 仕組みが死なないための「仕組みを動かす仕組み」

素晴らしい仕組みを作っても、それが守られなければ意味がありません。「ルールは形骸化するかもしれない」「人はズルをするかもしれない」。ここまで徹底するのがキーエンス流の性弱説です。

嘘を見破る「ハッピーコール」と、ズルをさせない「評価制度」

例えば、営業担当者が日報に嘘の面談時間を書くかもしれません。この「嘘をつくかもしれない」という弱さに対し、キーエンスは**「ハッピーコール」**という仕組みを用意しています。担当者の上司が顧客に直接電話し、「先日の担当者の対応はいかがでしたでしょうか?」とフォローするのです。これにより、日報の正確性が担保され、仕組みの形骸化を防ぎます。

また、評価制度も巧みです。単なる予算達成率だけでなく、「前年実績からの伸び率」など複数の指標で評価します。「予算を低く設定して達成しよう」という安易な道を選ぶ人が得をしない仕組みにすることで、社員は正々堂々と高い目標に挑戦するようになるのです。

▲TOP

4. あなたの明日を変える「性弱説」実践の第一歩

この強力な「性弱説」の考え方は、決して大企業だけのものではありません。私たちの日常業務や学習にも応用できます。今日からできる、具体的なアクションプランを考えてみましょう。

「マイ・性弱説」導入プラン

  1. 自分の「弱さ」を書き出す: 「つい後回しにしてしまう」「細かい確認を怠りがち」「新しいツールを学ぶのが億劫」。まずは自分が楽な方に流れてしまうパターンを正直に認め、リストアップしてみましょう。
  2. 「〇〇かもしれない」と予測する: タスクに取り組む前に、「この部分でミスをするかもしれない」「相手はこの点を理解してくれないかもしれない」と、失敗の可能性を具体的に予測します。
  3. 自分だけの「仕組み」を作る: 予測した失敗を防ぐための、簡単なルールやツールを導入します。
    • 例1:「報告を忘れがち」→ スマホのリマインダーでタスク完了後すぐに「〇〇さんに報告」と設定する。
    • 例2:「集中力が続かない」→ ポモドーロ・テクニックを使い、25分作業+5分休憩を強制するタイマーアプリを導入する。
    • 例3:「確認漏れが多い」→ メール送信前に必ずチェックする項目をリスト化し、物理的な付箋に書いてPCに貼る。
  4. 仕組みを守るための「仕組み」を考える: 作ったルールを破らないように、第三者を巻き込みます。「週に一度、同僚に進捗チェックをしてもらう」「月末にチェックリストの達成度を上司に報告する」など、自分を良い意味で追い込む環境を作りましょう。

▲TOP

まとめ:弱さを知る者が、最も強くなる

「性弱説」とは、人間不信の思想ではありません。むしろ、人が持つ避けられない「弱さ」への深い理解と愛情に基づいた、極めて現実的で効果的なアプローチです。自分の弱さ、チームの弱さから目を背けず、それを前提とした「仕組み」をデザインする。その先にこそ、個人の能力や意志の力だけに頼らない、再現性の高い、そして圧倒的な成果が待っています。

さあ、今日から「頑張る」のをやめて、「仕組み」づくりを始めてみませんか。

スポンサーリンク